「老後のお金」と聞くと、つい「65歳以降」のことだけを思い浮かべてしまいがちです。
ですが実際の生活では、病気・ケガ・親の介護・リストラなどで、「65歳になる前に収入が大きく減る」可能性もあります。
この「途中で収入が途切れるかもしれないリスク」をどうカバーするかを考えることは、老後の年金を考えることと同じくらい大切です。
この記事では、今まさに働いている世代の方や子育て中のご家庭向けに、
- なぜ「途中で働けなくなるリスク」を老後マネーとセットで考える必要があるのか
- 日本の公的な仕組み(公的年金・健康保険・傷病手当金など)でどこまで守られているのか
- 家計でどのように備えていけばよいのか
を、できるだけやさしく、具体的な数字の例を交えながら整理していきます。
「老後」だけでなく「途中のリスク」もセットで考える理由
多くのライフプランのイメージは、「65歳までフルタイムで働き、その後は年金と少しの貯蓄で暮らす」という前提になりがちです。
しかし現実には、次のようなことが起こりえます。
- 40代での長期療養(がん・うつ病など)
- 50代でのリストラ・早期退職
- 子どもの進学と親の介護が重なり、フルタイムで働けなくなる
- 自分またはパートナーの障害状態による就労制限
こうした出来事は、単に「今月の家計が赤字になる」だけでなく、
- その期間、厚生年金・企業年金・退職金の積み上がりが減る
- 将来の公的年金額にも影響が出る
- 老後に回すはずだった貯蓄を、生活費や医療費に取り崩すことになる
という形で、老後のお金にも二重三重の影響を与えます。
逆に言えば、
「65歳以降の年金の額」だけでなく、「65歳までの働き方がどれくらい安定して続けられそうか」を考えることが、老後マネー設計の重要な一部
とも言えます。
そこでまずは、日本の公的な仕組みが「もし働けなくなったとき」にどこまでカバーしてくれるのかを見ていきます。
もし長期間働けなくなったら:公的な保障はどこまでカバーしてくれる?
日本では、公的年金や健康保険にも「働けなくなったとき」のための仕組みが用意されています。
代表的なものを整理すると、次のようになります。
- 傷病手当金(会社員・公務員で健康保険に加入している場合)
- 障害年金(国民年金・厚生年金の制度の一部)
- 失業給付(雇用保険)
傷病手当金:病気やケガで休職したときの生活を支える
会社員・公務員で健康保険(協会けんぽや組合健保など)に加入している場合、病気やケガで働けなくなり、給与が支払われない(または減額される)とき、「傷病手当金」を受け取れる可能性があります。
- 対象は「仕事以外での病気・ケガ」による療養による休業
- 会社から十分な給与が出ていないことが条件
- 受給できる期間は最長1年6か月(※制度は変更される可能性があります)
具体的な金額は加入している健康保険や標準報酬月額によって異なりますが、「手取りの給与満額」にはならないのが一般的です。
(例)手取り28万円の会社員が長期療養になった場合(仮のイメージ)
※分かりやすさのための単純化したイメージです。実際の金額計算や支給条件は加入している健康保険組合や所得状況によって異なります。
- 休職中:
- 傷病手当金:手取りより少ない額
- ボーナス・残業代は原則なし
- 社会保険料や税金の負担は残る場合あり
このように、「ある程度はカバーされるが、現役時代と同じ生活レベルをそのまま維持するのは難しい」ことが多いです。
住宅ローン・教育費などの固定費が多い家庭ほど、この差が家計に重くのしかかります。
障害年金:長期的に働くことが難しい状態になった場合
病気やケガが長期化し、一定の障害状態になった場合、公的年金制度の「障害年金」を受けられる可能性があります。
- 国民年金に基づく「障害基礎年金」
- 厚生年金加入者の場合は「障害厚生年金」が上乗せされる場合も
支給の有無・額は、
「どの年金にどれくらい加入していたか」「障害の程度」「初診日」などによって大きく異なります。
重要なのは、「障害年金だけで家族全員の生活が十分まかなえる」というケースは決して多くないという点です。
世帯の家計規模によっては、貯蓄や配偶者の収入など、ほかの支えも必要になってきます。
失業給付:リストラ・契約満了などで職を失ったとき
雇用保険に加入している場合、失業したときには「失業給付(基本手当)」を受け取れる可能性があります。
ただし、
- 給付期間は無期限ではない
- 受け取れる金額も、現役時代の手取りと比べると少なくなりやすい
- 所得が一定以上になると減額される仕組みもある
といった点に注意が必要です。
現役世代ができる「途切れない老後マネー」づくりの考え方
公的な仕組みだけでは、収入が途切れたときの生活を完全に守りきれないことが分かります。
そこで家計としてできる対策を、「3つの視点」で考えてみましょう。
月々の固定費を軽くしておく
生活防衛資金をしっかり持っておく
長期の資産形成を無理のない範囲で続けておく
1. 月々の固定費を軽くしておく
「収入が減っても、家計がすぐには崩れない状態」にしておくことが大切です。
見直しやすいポイントとしては、
- 住宅費(ローン返済額・賃貸料が家計全体の中で重すぎないか)
- 通信費(スマホ・インターネット)
- 保険料(本当に必要な保障に絞れているか)
- サブスクサービス(使っていないものが残っていないか)
などがあります。
(例)固定費を月2万円減らせた場合のインパクト(仮のイメージ)
- 月2万円 × 1年 = 24万円
- 月2万円 × 5年 = 120万円
毎月少しの見直しでも、数年単位で見ると「いざというときに使える余力」が大きく違ってきます。
2. 「生活防衛資金」を優先してためておく
「生活防衛資金」とは、もし収入が途切れたり減ったりしたときに、生活費として取り崩すことを前提に貯めておくお金です。
一般的には「生活費〇か月分」などと表現されますが、必要な額は家庭の状況によって異なります。
- 子どもの人数・年齢
- 共働きか片働きか
- 住宅ローンの残高や返済額
- 実家からのサポートの有無
などを踏まえて、「わが家にとっての安心ライン」を決めるのが現実的です。
(例)生活費の目安を計算してみる(仮のイメージ)
- 住居費:10万円
- 食費:7万円
- 光熱費・通信費:3万円
- 保険料・その他固定費:3万円
- 教育費・雑費:4万円
合計:月27万円
この家庭が、「最低でも6か月分は現金で持っておきたい」と考えた場合:
- 27万円 × 6か月 = 162万円
まずはこの金額を、元本割れのリスクが低い預貯金などで確保することを優先する、という考え方もあります。
3. 無理のない範囲で長期の資産形成を続ける
生活防衛資金を確保したうえで、余力があれば、長期的な資産形成も考えていきます。
代表的な制度としては、以下のようなものがあります。
- NISA(少額投資非課税制度)
- iDeCo(個人型確定拠出年金)
どちらも長期・分散・積立をしやすい制度ですが、注意したいのは、
- iDeCoは原則60歳まで引き出せない
- NISAでも元本割れの可能性がある
といった点です。
途中で働けなくなるリスクも踏まえると、
- 「何かあったときすぐに使えるお金(預貯金など)」
- 「老後に育てていくお金(NISAやiDeCoなど)」
を明確に分けて考え、「どちらも少しずつ育てていく」イメージを持つことが大切です。
具体例でイメージする「もし今、1年間働けなくなったら?」
次は、仮のケースを使って「わが家ならどうなるか」をイメージしてみましょう。
(例)共働き夫婦+子ども2人のケース(仮の設定)
- 夫:会社員(手取り月28万円)、厚生年金・健康保険加入
- 妻:パート(手取り月10万円)、扶養内で就労
- 子ども:小学生2人
- 住宅ローン:月9万円
- 預貯金:300万円(うち、すぐ動かせる普通預金は200万円とする)
ここで、夫が病気で1年間働けなくなり、傷病手当金を受け取るとします。実際の金額や支給条件は人それぞれですが、ここではイメージとして、
- 傷病手当金+妻のパート代+児童手当 などを合わせて
「世帯の手取り収入が、以前の80%」になったと仮定します。
1年間の収支イメージ(かなり単純化した仮例)
- 以前の世帯手取り:
- 夫28万円+妻10万円 = 月38万円
- 収入が80%になった場合:
- 月30万4,000円(約30万円で計算)
毎月の生活費が変わらず「月38万円」のままだとすると、
- 毎月の赤字:38万円 − 30万円 = 8万円
- 1年間での赤字:8万円 × 12か月 = 96万円
預貯金300万円のうち、約3分の1が1年間で減る計算になります。
もしこの間に、子どもの進学や車の買い替えなどの大きな支出が重なれば、さらに取り崩しは増えます。
この例から分かることは、
- 「今の生活費のまま、1年間収入が減ったら、預貯金はどのくらい減るか」
- 「その減り方は、自分たちにとって“想定内”か、“不安になるレベル”か」
を家族で話し合ってみることの大切さです。
今週できる「途中で途切れない」老後マネー準備チェックリスト
この週末に、10〜20分でできる確認ポイントをまとめました。
すべてやろうとせず、「できそうなものから1つだけ」でも十分です。
家計・貯蓄まわり
- [ ] 先月1か月分の支出をざっくり確認し、「固定費」「変動費」に分けてみる
- [ ] 住居費・通信費・保険料を合計し、「手取り収入の何割か」を計算してみる
- [ ] 生活防衛資金として、今どのくらいの預貯金を確保できているか確認する
- [ ] 「わが家の生活費〇か月分」がいくらになりそうか、電卓でざっくり計算してみる
仕事・保障まわり
- [ ] 自分の勤め先の健康保険で、傷病手当金があるかどうかを就業規則や健康保険の案内で確認する
- [ ] 雇用保険に加入しているかどうか、給与明細の「雇用保険料」の欄でチェックしてみる
- [ ] 会社から渡されている年金定期便やねんきん定期便を探して、どこにしまってあるか確認する
完璧にやろうとする必要はありません。
まずは現状を「ざっくり見える化する」だけでも、次に何をすれば良いかが見えやすくなります。
気をつけたいポイント:よくある勘違いと落とし穴
途中で収入が途切れるリスクと老後マネーを一緒に考えるとき、注意したいポイントをいくつか挙げます。
「公的な制度があるから大丈夫」と思い込みすぎない
- 傷病手当金・障害年金・失業給付などは、「収入の一部を補う制度」と考えたほうが現実的です。
- 家族構成や家計の規模によっては、制度だけでは足りないことが多く、貯蓄や家族の収入などが重要な支えになります。
「老後資金づくりに全力投球して、生活防衛資金が少なすぎる」
- NISAやiDeCoなどでコツコツ積み立てていても、途中で大きく取り崩すことになれば「老後のタネ」を減らしてしまいます。
- 特にiDeCoは原則60歳まで引き出せないため、「当面使う可能性のあるお金」は預貯金などと分けることが大切です。
「保険で全てカバーできる」と思ってしまう
- 民間の医療保険・就業不能保険なども選択肢にはなりますが、保険料が家計を圧迫しては本末転倒です。
- まずは、公的な制度でどこまでカバーされているかを把握したうえで、「足りない部分をどう補うか」を考えるのが自然な流れです。
「ルールは変わらない」と思い込まない
- 公的年金・税制・社会保険のルールは、少しずつ変わっていきます。
- 数年前の情報や他人の経験談だけで判断せず、必要に応じて公式サイトや専門家の最新情報を確認することが大切です。
まとめ:途中のリスクを見据えた“しなやかな”老後マネー設計を
「老後のお金」というと、どうしても「65歳以降にいくら必要か」という話に集中しがちです。
ですが、働き方や健康状態が変わりやすい今だからこそ、
- 65歳までの間に、どんなリスクがありそうか
- そのとき、公的な制度でどこまで守られるのか
- わが家の家計は、その変化にどれくらい耐えられそうか
をセットで考えておくことが、結果的に「老後のお金の安心」にもつながっていきます。
今日すぐに大きな決断をする必要はありません。
まずは、この記事のチェックリストの中から「これならできそう」というものを1つだけ選んで、今週のどこかで5〜10分、家計と向き合う時間をとってみてください。
少しずつでも「わが家のお金の全体像」が見えてくると、
老後のお金も、途中のリスクも、「漠然とした不安」から「具体的な対策」へと変えていくことができます。
参考資料
- 日本年金機構「障害年金」 - 障害年金の仕組みや受給要件についての公式解説
- 協会けんぽ「傷病手当金」 - 傷病手当金の支給要件・支給期間・計算方法などの概要
- ハローワークインターネットサービス「基本手当(いわゆる失業保険)」 - 雇用保険の基本手当の内容や受給条件の説明
- 金融庁「NISA 特設ウェブサイト」 - NISA制度の概要や制度改正の最新情報
- 金融広報中央委員会「知るぽると:生活設計と家計管理」 - 生活設計・家計管理・リスクへの備えに関する基礎知識や解説記事